短編小説「つながってる場所」#4

#4 血よりも近い場所

その場所で出会ったのは、ちゃたともこである。
血のつながりはない。
それでも、気がつけばふたりは当たり前のように一緒にいた。

ちゃたは、もこより一ヶ月だけ早く生まれた。

たったそれだけの差なのに、
どこかお兄ちゃんのように見えた。

よく食べ、よく動き、よく甘える。

自由で、元気で、いつも少しだけ先を歩いている。

その後ろを、もこがついていく。
くっつきすぎるわけでもなく、離れすぎるわけでもない。
その距離が、ふたりにはちょうどよかったのだと思う。

ある日、ちゃたがいつものように私を呼んだ。

台所の方で小さく鳴き、こちらを見つめる。
「水を出して」
そう言っているようだった。

蛇口をひねると、ちゃたは当たり前のように顔を近づけ、
水を飲みはじめる。

その少し後ろで、もこがじっと見ていた。
近づくでもなく、離れるでもなく、ただ静かに。

その光景を見ていて、ふと思った。
このふたりは大丈夫だ、と。

特別なことは何もしていない。

それでも、何気ない時間の中に、
確かなものが積み重なっているように感じられた。

言葉はなくても、伝わるものがある。
「ここにいる」
という安心のようなものが、ふたりのあいだには流れていた。

夜になると、私はそんな様子を眺めながら眠りにつくことがあった。
ふたりが並んでいるのを見ていると、なぜか少しだけ安心した。
そのまま静かに目を閉じる。

そんな日々が、これからも続いていくような気がしていた。

寒い冬だった。

ちゃたは、こたつが好きだった。
前の夜も、いつものようにこたつ布団の上で丸くなって眠っていた。
私はその横に布団を敷いて眠る。

それは特別なことではなく、
我が家では当たり前の日常だった。

朝になり、私はいつものように目を覚ます。
いつものように朝ごはんを食べる。

そして――
ちゃたは静かに旅立った。

一月半ばの、冷たい朝だった。

ちゃたの病気が遺伝性だと聞いたとき、
正直、少しだけほっとした自分がいた。

もことは、血がつながっていない。

この子には、同じものを背負わせなくていい。
そう思えたからだった。

けれど同時に、気づいたことがある。
血がつながっていなくても――

こんなにも、つながっているのだということに。
ちゃたが眠るそばで、もこが静かに寄り添っていた時間。
言葉はなくても、ちゃんと伝わっていた想い。

あの距離も、あの空気も、全部がつながりだった。

やがて、ちゃたはいなくなった。

それからしばらくして。
もこが何もない場所を、じっと見つめることが増えた。
少しのあいだ動かずにいて、
それから何事もなかったように歩き出す。

最初は気にも留めていなかった。

でも、何度かそれが続いて、
自然と私もその場所を見るようになった。

そこは特別な場所ではない。

いつもの部屋の一角。
ちゃたが、よくいた場所だった。
あるとき、ふと思った。
――今、何かが通り過ぎた気がする。

もちろん、気のせいかもしれない。
でも、そう感じる瞬間が確かにあった。

はっきりとは分からない。
ただ、誰かがいるような気がした。
怖いわけではない。

むしろ、少しだけあたたかかった。
その場所に座ってみる。
理由は分からないけれど、そこにいると、少しだけ心がほどけた。

もこは何も言わない。

ただ近くに来て、同じように座る。
それだけなのに、なぜかひとりではない気がした。

ちゃたと過ごした時間も、そのとき感じたぬくもりも、
消えてしまったわけじゃない。

形を変えて、ここに残っている。

冬になると、今でもふと、
こたつ布団の上に視線を向けることがある。

そこには誰もいない。

それでも、ぬくもりだけは残っている気がする。
目に見えなくてもいい。
はっきりと言葉にできなくてもいい。
ただ、感じることができる。

ここが――
つながってる場所。

もこと、私と、
そしてこれまで一緒に過ごしてきた存在が、
今も静かに重なっている。