#5 風の通る場所
梅雨の合間の晴れた日だった。
朝まで降っていた雨はいつの間にか止み、窓の外には青空が広がっている。
窓を少し開けると、雨上がりのやわらかな風が部屋の中を通り抜けた。
その風の通り道にある箪笥の上で、もこは今日も気持ちよさそうに眠っている。
お気に入りの場所だ。
若い頃はもっと違った。
家の中を走り回り、気になるものを見つけては首を突っ込み、
ときには私の作業を邪魔することもあった。
けれど今は、起きている時間より眠っている時間の方が長い。
すっかり、おじいちゃん猫である。
それでも、もこは相変わらずマイペースだった。
ときどき耳を動かし、
雨上がりの風の匂いを確かめるように鼻をひくつかせる。
そしてまた眠る。

その姿を見上げながら、ふと思う。
るなは、ここまで年を重ねることができなかった。
らぐたんも。ちゃたも。
それぞれに大切な時間があり、
たくさんの思い出を残してくれた。
けれど、その続きは見ることができなかった。
もし今もそばにいたなら。
どんな顔で眠っていただろう。
どんなふうに歳を重ねていただろう。
そんなことを考える日もある。
でも、もこは今ここにいる。
窓辺で眠り、ご飯を食べ、気が向けば甘えてくる。
特別なことは何もない。
物語になるような出来事もない。
それでも、その当たり前が愛おしい。
失って初めて分かることがある。
何も起こらない一日が、どれほど大切だったのかということを。
だから私は、もこの寝顔を見る。
静かに眠っている姿を見ているだけで、心が少し落ち着く。
この子はきっと知らない。
私がどれだけ救われているのかを。
窓の外では、雨に洗われた木々の葉が風に揺れている。
その風が、もこのひげを少しだけ揺らした。
耳がぴくりと動く。
それを見て、思わず笑ってしまう。
昔のように走り回ることは少なくなった。
けれど、今のもこには今の愛しさがある。
つながっている場所は、遠いどこかにあるだけじゃない。
るなも。
らぐたんも。
ちゃたも。
きっとどこかで見守ってくれている。
そして、その想いの先に、今ここで眠っているもこがいる。
風の通る窓辺。
いつもの部屋。
何気ない昼下がり。
そんな当たり前の景色の中にも、
つながってる場所はあるのだと思う。
