短編小説「つながってる場所」#0

やさしい記憶の入り口

最近、ふとした瞬間に思い出すことがある。

もう会えないはずのあの子たちのこと。
一緒に過ごした時間や、何気ない日常の中のぬくもり。

寂しい、という気持ちもあるけれど、

それだけじゃなくて——

「ちゃんと、どこかでつながってるんじゃないかな」

そんなふうに思う瞬間がある。

今、私のそばには「もこ」がいる。

元気で、マイペースで、少し気まぐれで。

でも時々、不思議なくらい落ち着いた表情を見せることがある。

まるで、何かを感じ取っているみたいに。

そんなある日の夜。

静かな部屋の中で、

もこがいつもの場所に顔を入れていた。

それを見ていたとき——

なぜか、こんなことを思った。

「もしかして、あの子たち……?」

夜、部屋が静かになったころ。

もこは、いつもの場所——

机の奥、コードが少し絡まっているところに顔を入れた。

くん、くん、と確かめるように匂いを嗅ぐ。

そこには、少しだけ不思議な気配がある。

見えないけれど、たしかに「いる」感じ。

そのとき、ふわっと空気がやわらいだ。

やさしくて、どこか懐かしい気配。

「お、来たな」

最初に聞こえたのは、少し元気な声。

ちゃた。

「ちゃんと食べてるか?」
「遠慮しなくていいぞ。その人、いっぱいくれるからな」

相変わらずの調子で笑っている。

もこは、ぴくっと耳を動かした。

知らないはずなのに、どこか安心する声。

「この子、いい子だね」

次に聞こえたのは、落ち着いたやさしい声。

らぐたん。

「この人ね、少し寂しがりだから」
「そばにいてあげてね」

ゆっくりと、包み込むような声。

そして、少し小さくてあたたかい声。

るな。

「大丈夫だよ」
「いっぱい甘えていいんだよ」

そっと寄り添うようなやさしさ。

もこは、その場に座り込む。

知らないはずの声。

でも、どれも怖くない。

むしろ——

胸の奥が、じんわりあたたかくなる。

「ここ、いい場所でしょ?」

ちゃたが言う。

「俺もよくここにいたんだ」

「つながってる場所なんだよ」

らぐたんが静かに続ける。

「見えないだけで、ちゃんといるから」

るなが、やさしく添える。

少し離れたところで、私はその様子を見ていた。

もこが、いつもより落ち着いている。

理由はわからない。

でも、なんとなくわかる気がした。

あの子たちだ。

らぐたん。

ずっとそばにいてくれた、最初の子。

るな。

寒い朝に、やさしい歌の中で旅立った子。

ちゃた。

もこの隣で、兄のように過ごしていた子。

「この人のこと、頼むな」

ちゃたの声が、少しだけ真剣になる。

「大丈夫だよ」

らぐたん。

「ちゃんと見てるから」

るな。

もこは、小さく「にゃ」と鳴いた。

それはきっと、返事。

そのあと、くるっと丸くなって眠り始める。

安心したように、深く、静かに。

私は、そっとつぶやいた。

「……そっか」

見えないだけで、

ちゃんとつながっている。

あのときの命も、

いまここにいる命も。

もこの寝顔は、少しだけ懐かしくて——

やさしい記憶が、

今もここにあることを教えてくれていた。